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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)36号 判決

原告 秋元長寿 外一名

被告 東京国税局長

訴訟代理人 国吉良雄 外四名

主文

原告らの請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の申立て

(原告ら)

「被告が原告らに対し、昭和四三年一〇月二五日付で、原告らが同年五月七日付でした相続税の更正および過少申告加算税の賦課決定に対する、審査請求を棄却した裁決を取り消す、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

(被告)

主文と同旨の判決

第二原告らの主張

(請求の原因)

一  原告らはその被相続人である亡秋元伝一が昭和四〇年四月一三日死亡し、これを相続したので、中野税務署長に対し相続税の申告をしたところ、同署長より昭和四二年一二月二七日付で更正および過少申告加算税の賦課決定を受けた。そこで、原告らは、同署長に対し異議申立てをしたが、昭和四三年四月一〇日付でこれを棄却されたので、被告に対し同年五月七日審査請求したところ、同年一〇月二五日付で審査請求を棄却する旨の裁決を受けた。

二  しかしながら、被告のした前記裁決は、次の理由により違法であるから、取り消されるべきである。すなわち、

1 原告らに送達された審査裁決書謄本には、原告らの理解しうる程度の具体的理由が記載されておらず、単に中野税務署長のした原処分に示されたと同一の理由が記載されているにすぎない。この点において、被告のした裁決は違法である。

2 被告は裁決をなすにあたり十分な審理をしていない、すなわち、中野税務署長のした原処分は、原告長寿の相続した土地について、その実情を無視し、単純に路線価方式によつてその評価をなしており、原告ユキの相続した土地について、それが株式会社秋元ビルに賃貸中のものであることを無視し、これを認めるためにはその旨の記帳が不備であるとしてその一部を否認しており、これに従うと、原告らとしてはその相続財産のすべてを物納せざるを得なくなり、原告らの先祖が辛苦のうえ蓄積した財産をそのまま没収されるのと同一の結果となるのである。そこで、原告らは、右の点を被告および東京国税局の担当協議官に訴えたのであるが、被告はこれに耳を傾けず、原告らと十分に話し合つて原告らの意見をきくことなく裁決をしたものである。この点においても、被告のした裁決は違法である。

(被告の主張に対する答弁)

原告らのした審査請求の理由および審査裁決書謄本に記載されていた理由が被告主張のとおりであることは認めるが、それをもつて原告らの理解しうる程度の具体的理由が記載されているものということはできない。また本件審理手続において、東京国税局協議官渡辺之夫が担当協議官となつて主として本件審理にあたり、昭和四三年六月一九日、原告らの相続した土地に臨み、原処分の内容につき調査検討し、原告ユキから不服の内容について意見を聴取し、原処分に関与した中野税務署の所部職員からも意見を聴取し、次いで同年七月四日、原告ら方を訪れ、原告らの代理人岩田亮吉に面接し、原告らの審査請求に対する意見を聴取し、さらに同年七月九日、右岩田が東京国税局協議団本部を訪れた際にも同人に審理内容の経緯を説明していることは認めるが、これをもつて原告らの実情を調査し、その意見を十分に聴取して審理し、これに基づいて裁決したものということはできない。

第三被告の答弁および主張

(答弁)

請求の原因一の事実は認めるが、同二の主張は争う。

(主張)

一  原告らに送達した審査裁決書謄本には、十分な理由の記載があるすなわち、

1 原告長寿に対する理由付記

同原告が審査請求の理由としたところは、中野税務署長がした同原告が相続により取得した土地の評価が不当に高額であるというにあつたので、これに応じて、被告は同原告が申告した土地の価額は、東京都の固定資産税評価額に基づいて計算されたものであり当該土地の取得の時における時価(路線価方式による評価額)とは認め難い旨の理由を審査裁決書謄本に記載しているのであるから、理由付記としては十分であり、同原告の主張は失当である。

2 原告ユキに対する理由付記

同原告が審査請求の理由としたところは、中野税務署長がした同原告が相続により取得した土地の評価が不当に高額であり、また、株式会社秋元ビルに賃貸中の宅地の一部を自用地として評価したのは納得できないというにあつたので、これに応じて、被告は同原告が申告した土地の価額は、東京都の固定資産税評価額に基づいて計算されたものであり、当該土地の相続による取得の時における価額(路線価方式による評価額)とは認め難いことおよび株式会社秋元ビルとの間の賃貸契約の内容同会社の事業活動と賃料支払の状況、鹿島建設株式会社との一時使用貸借契約の内容、当該使用料の収受状況等により、評価上自用地と同様に評価した原処分は相当である旨の理由を審査裁決書謄本に記載しているのであるから、理由付記としては十分であり、同原告の主張は失当である。

二  本件審査裁決をなすについては、十分な審理をしている。

すなわち、

国税庁協議団及び国税局協議団令(昭和二五年六月三〇日政令第二一四号)五条によれば、協議団が合議を行なうにあたつては、不服申立てをした者にその意見を述べる機会を与えなければならないものとされているところでもあるので、本件審理手続において担当協議官となつた東京国税局協議官渡辺之夫は、まず原告等の申告書を含む一件書類により原処分庁である中野税務署長がいかなる調査をしたかにつき書面審理をしたうえ、さらに実地に審理するため、昭和四三年六月一九日、原告らの相続した土地に臨み、原処分の内容につき調査検討し、かっ原告ユキから不服の内容について意見を聴取し、また原処分に関与した中野税務署の所部職員からも本件各審査請求に対する意見を聴取し、次いで、同年七月四日、原告ら方に赴き、原告らの代理人と称する岩田亮吉に面接し、原告らの審査請求に対する意見を聴取したばかりでなく、同年七月九日、右岩田が東京国税局協議団本部を訪れた際、同人に対し審理内容の経緯を説明した。かくして本件裁決をなしたものであるから、本件裁決は、原告らの意見を十分に聴取し、慎重な審理に基づくものであつて、なんら違法なものではない。

第四証拠関係〈省略〉

理由

原告らが、その被相続人である亡秋元伝一が昭和四〇年四月一三日死亡し、これを相続したので、中野税務署長に対し相続税の申告をしたところ、同署長より昭和四二年一二月二七日付で更正および過少申告加算税の賦課決定を受け、同署長に対し異議申立てをしたが、昭和四三年四月一〇日付でこれを棄却されたので、被告に対し同年五月七日審査請求したところ、同年一〇月二五日付で審査請求を棄却する旨の裁決を受けたことは当事者間に争いがない。

原告らは、本件裁決は、理由付記の点および審理の点において違法であると主張するので、以下右の点について順次判断をする。

一  理由付記の点についての判断

国税通則法七五条により国税に関する審査請求について適用される行政不服審査法四一条一項は、裁決に理由を付記しなければならないと定めているが、その趣旨とするところは、審査請求人に裁決の理由を了知させるとともに、審査庁の判断を慎重ならしめ、裁決が審査庁の恣意に流れることのないように、その公正を保障することにある。従つて理由の付記は、特に審査請求人の不服の事由に対する判断を明確ならしめるため、不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明らかにするに足るものでなければならない。

但し、審査請求を棄却する場合には、その裁決書の記載が当初の更正処分通知書または異議決定書の理由と相侯つて原処分を正当として維持する理由を明らかにしておれば足りるというべきである(最高裁昭和三七年一二月二六日第二小法廷判決・民集一六巻一二号二五五七頁、同庁昭和三八年五月三一日第二小法廷判決・民集一七巻四号六一七頁等参照)。そこで、本件裁決の理由付記の適否についてみることとする。

1  原告長寿に対する理由付記について

原告長寿が、審査請求の理由として、中野税務署長がした同原告が相続により取得した土地の評価が不当に高額であると述べたこと、被告が本件裁決に付記して、同原告の申告に係る土地の価額は、東京都の固定資産税評価額に基づいて計算されたものであり、当該土地の取得の時における時価(路線価方式による評価額)とは認め難いという理由を説示したことは当事者間に争いがない。右事実によれば、本件裁決に付記された理由は、同原告が審査請求の理由としたところに対応しており、かつ同原告の申告に係る土地の評価額がその評価方法において誤つていて、それは、相続税法二二条にいう当該財産の取得の時における時価ではなく、路線価方式による評価額でなければならない旨を明示しているものであるから、行政不服審査法四一条の前説示の趣旨・目的にもとるところはなく、理由付記の形式上何ら違法の瑕疵はない。

2  原告ユキに対する理由付記について

原告ユキが審査請求の理由として、中野税務署長がした同原告が相続により取得した土地の評価が不当に高額であり、また、株式会社秋元ビルに賃貸中の宅地の一部を自用地として評価したのは納得できないと述べたこと、被告が本件裁決に付記して、同原告の申告に係る土地の価額は、京東京都の固定資産税評価額に基づいて計算されたものであり、当該土地の相続による取得の時における価額(路線価方式による評価額)とは認め難いことおよび株式会社秋元ビルとの間の賃貸借契約の内容、同会社の事業活動と賃料支払の状況、鹿島建設株式会社との一時使用貸借契約の内容、当該使用料の収受状況等により、評価上自用地と同様に評価した原処分は相当であるという理由を説示したことは当事者間に争いがない。右事実によれば、本件裁決に付記された理由のうち、土地の価額の評価方法に関する部分は、前説示の原告長寿に対する理由付記についての判断と同一理由により原告ユキの主張は理由がないものであり、自用地と同様に評価したことに関する部分は、同原告が審査請求の理由としたところに対応するものであり、かつ原処分が白用地と同様に評価したことの相当である根拠を項目別に示していて、一応本件裁決の理由として理解しうるものであるから、行政不服審査法四一条一項の前説示の趣旨・目的にもとるところはなく、理由付記の形式上、何ら違法の瑕疵はない。

原告らが右理由の内容を理解できないと主張する趣旨は、結局、本件裁決によつて維持された原処分の理由自体について承服できないというに帰するものであり、直接、原処分の適否を争うのならば格別、本件裁決の理由付記の点についての原告らの主張は、右に説示したとおりいずれも理由がなく採用し難い。

二  審査の点についての判断

原告らは、被告が本件裁決をするにあたり、原告らの意見を聴取する等十分な審理をしていない旨主張するが、本件審理手続において、東京国税局協議官渡辺之夫が担当協議官となつて主として本件審理にあたり、昭和四三年六月一九日、原告らの相続した土地に臨み、原処分の内容につき調査検討し、原告ユキから不服の内容について意見を聴取し、原処分に関与した中野税務署の所部職員からも意見を聴取し、次いで同年七月四日、原告ら方を訪れ、原告らの代理人(この点について、原告らは、原告らの代理人と主張し、被告は、原告らの代理人と称する、と主張し、その間に争いのあるところであるが、すくなくとも原告らは、みずからの代理人と認めているものである。)岩田亮吉に面接し、原告らの審査請求に対する意見を聴取し、さらに同年七月九日、右岩田が東京国税局協議団本部を訪れた際にも同人に審理内容の経緯を説明したことは原告らの自認するところであり、以上の事実によれば、被告が本件裁決をするにあたり、被告が原告らの意見を聴取する等十分な審理をしなかつたものということはできず、この種の行政手続において通常要求されている審理方式としては妥当なものと認められ、他に原告らの主張を肯認するに足る主張、立証はない。されば、原告らの右主張は、理由がなく採用し難い。

以上説示のとおり、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 園部逸夫 渡辺昭 竹田穣)

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